名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(ナ)4号 判決
原告 米村為八郎
被告 山崎長次
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、昭和二十六年四月二十三日行われた石川県珠洲郡宝立町の町長選挙における被告の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、原告は昭和二十六年四月二十三日行われた石川県珠洲郡宝立町の町長選挙における選挙人であり、被告は、同選挙に於て当選人として決定せられその旨告示された。ところで右宝立町町長選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額は宝立町選挙管理委員会の告示にかかる一万八百円であるが、被告の選挙運動に関する費用の支出額は右制限額をはるかに超過するものである。即ち被告の出納責任者訴外谷内斗二郎がその選挙運動費用として宝立町選挙管理委員会へ提出した報告書によると、法定制限額以内の合計一万六十五円だけを記載するに過ぎないけれども、事実は被告及び谷内斗二郎は選挙期日数日前有権者に清酒五斗以上を供与しておりその金額約二万円は選挙費用として加算すべきであり、仮に乙第一号証の判決に認定されているように被告の選挙運動者である訴外赤坂謙蔵が被告の当選を得る目的を以て被告及びその出納責任者たる右谷内斗二郎と意思を通じて、昭和二十六年四月十八、九日頃同町選挙人中島武雄外四名に対し合成酒合計二斗三升を供与したものであるとしても、その価格は合計九千八十五円となり、その費用は当然選挙運動費用として加算さるべきものである。従つて被告の選挙運動に要した費用の総額は右清酒乃至合成酒の価額相当額と既に届出済の一万六十五円との合計額となり、前記制限額一万八百円を超過すること明かであるから、ここに被告の当選を無効とする旨の判決を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告がその主張の如く、宝立町の町長選挙における選挙人であり、被告が当選人として決定されその旨の告示があつたこと、同選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額が一万八百円なること、訴外谷内斗二郎が被告の出納責任者であることは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。又訴外赤坂謙蔵が原告主張の如く酒を提供した事実があつたとしても、これは被告又はその出納責任者たる谷内斗二郎と意思を通じてした支出ではなく全く無関係のものである。尚仮りに右が谷内斗二郎と意思を通じてなしたものとするも、被告並推薦届出者には谷内の選任監督について過失なく、又谷内自身も支出行為について過失がなかつたものであると述べた(立証省略)。
三、理 由
原告がその主張する如く宝立町の町長選挙における選挙人であり、被告が当選人として決定されその旨の告示があつたこと、同選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額が一万八百円であること、訴外谷内斗二郎が被告の出納責任者であることはいずれも当事者間に争がない。而して被告及び右谷内斗二郎が原告主張のように清酒五斗を有権者に供与したという立証はなく又右選挙に際し、被告候補者のため訴外赤坂謙蔵が昭和二十六年四月十八、九日頃同町選挙人中島武雄外四名に対し合成酒二斗三升価格九千八十五円を供与したことは成立に争のない乙第一号証によつて認められるが、右は被告候補者又は出納責任者と意思を通じてなした支出であると認められる証拠も全然ない。却つて右乙第一号証によれば、訴外赤坂謙蔵が第三者として独自の立場でなしたもので被告候補者又はその出納責任者と何等意思の連絡がなかつた事実が認められる。従つて本件清酒乃至合成酒供与の費用は被告の選挙運動費用に加算すべきではなく、これを加算すべきことを前提として、被告の選挙運動費用が制限額を超過することを理由とする原告の本訴請求は失当であつて、これを棄却すべきものである。よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田市平 村上久治 伊藤寅男)